円楽師匠インタビュー

私たちが最も親近感を持つ落語家のお一人・三遊亭円楽(さんゆうていえんらく)師匠にお話しを伺ってきました。
ナッセ誌面ではご紹介しきれなかったインタビュー全文を公開しています。

-円楽師匠が考えられる「落語の魅力」は何でしょうか?

要は “予習・復習・予備知識”がいらないということですね。 歌舞伎や能・狂言であれば、時代背景だとか筋書きだとか様々勉強しないとダメだけど、 「落語」は日本の伝統文化の中で一番とっつきやすくて、そして笑いという人間だけに与えられた特権を利用して 一つのドラマが完結する。しかもエコで、一人でできる。日本人が考えた世界最高峰のエンターテイメント、 それが「落語」だと自負していますね。それが魅力です。

円楽師匠写真

-確かに、歌舞伎などは、落語よりも緊張感があります。

そうなんです。よく「落語はどこで聴いたらいいですか」「どう聴いたらいいですか」という質問を受けるんですが、 一歩踏み出したら良い、敷居またげば良いっていう話。「落語」は敷居が低いと思います。 チケット買って、入れば良いだけ。それで面白い・面白くないっていうのは自分の感性と、 演者の上手い下手もありますし。寄席も、面白くなければロビーに出れば良いんです。

-寄席って外に出てもいいんですね。

僕は学生時分、落語が聞きたくて寄席に行きましたが、色物(漫才・マジック)の時には外へ出て、 頭整理したりお茶飲んだりしてました。それをして良いのが寄席です。

-そういう意味では、今度の「博多・天神落語まつり」では、色んなタイプの噺家さんが登場します。

そうそう。寄席は“宝探し”なんですよ。好きな噺家を見つけるのも一つだし、好きな落語を見つけるのも一つ、自分の中の自分を広げる作業にもなるし、自己啓発になるかもしれない。自分の感性に響くかどうか、あるいは、がっかりもしたり。 寄席で好みの噺家が4~5人出てきたら「あっ、宝物みつけた」って、きっとなるでしょ。

-東西落語の錚々たる面々ばかりですし!

本当に、日本最大の落語のフェスになりましたしね。いわゆる、落語の興行を生業としている人たちが、この時期は落語会ができないね、って言ってるし。 みんな楽しみにしてくれてます。若手の人たちからも「福岡の落語まつりに出して下さい!」って声を聞くしね。

-“落語のサマーソニック”のように感じます。

落語って“空気感”なんです。音源や映像もあるんだけど、不思議なもので“ライブ”なんですよ。 自分も同じ空気を吸ったっていう“震え”、同じ震えでも“生の震え”がある。 作品になっているものって、自宅で観ていても集中できないでしょ。家にいてもつい他のことやっちゃうし。 そいういう意味でも、「落語」って、その場で消えてしまうけど、その場に一緒にいたっていう感覚は残る。

-噺家さんも、幅広い年代の方がいらっしゃいますしね。

うん、一緒に歳を重ねていくっていうことでもあるしね。だから、自分のファンっていうのは自分の年代と近い人たちが多いですね。

円楽師匠写真

-落語が社会人に役立つ点はありますか?

活かそうと思って聞いた時に、活かせるとすれば“人付き合い”だろうね。あとは、落語っていうのは“日本人の忘れ物”が詰まっているんですよ。“現代人の忘れ物”と言ってもいいけど。古き良き時代ってのもあるんだけど、 親子・兄弟・友人。人情であったり友情であったり愛情っていうのが、落語にはすごくある。

-ほろっとする時もあります。

そういうものが“日本人の忘れ物”だとしたら、世の中で人と人とが切れている時代に、人と人とが繋がっていくドラマがあるわけです。 それに気付いて、リセット・リスタートできるんじゃないですか?

-つまり、今の時代だからこそ。

そうそう、歌舞伎や能・狂言まで難しくない上に、自分がふっと忘れている気付きがあるものが落語だと思ってます。落語を聴くと「あっ、お母さんに電話しよう」 「今度うちに帰ろう、しばらく母親に会っていないな」「親父に悪いことしたな、姉ちゃんに悪いことしたな」って思うしね。 そういう日本人の感性に訴える文化を、落語は持っているよね。

-仕事で忙しい中で忘れてしまっている、大事なことに気付かせてくれる。

笑いながらふっと気付ける人情味。無理強いされていないわけ。もらい笑い、もらい泣きはあるかもしれない。

-そう考えると落語って本当に身近な伝統文化ですね

そう、日本人ってすごいものを考えたなあって思いますよ。

-本当にその通りですね。ちなみに師匠は今年で噺家生活48年目。それだけ長く続けられて来られた秘訣・理由ってなんですか?

歌丸師匠の頃は落語しかすることがなかったって言ってたけど、私達の時代はすることが沢山あって、でも結局は「好き」だからじゃない?落語が好きなんです、きっと。それと落語に出てくる人たちが好きなんです。落語をやっている時って、やさしくなれますね。普段生活していると、時にイライラしたり怒りっぽくなったりするけど、落語をやっている時はストレスはない。 登場人物たちもストレスがない。「こんにちは」「やあやあ、よくきたね」ってなるし、人物に乗り移れるし。

-情景が思い浮かびます。

その人に乗り移れるでしょ。そうすると自分がいなくなる、でも高座では自分ひとりでしょ。で、時折もう一人の自分がいて、今日みたいに雷が鳴ったら(※)「おいおい大丈夫だよ」とか言ってみたり。 だから面白いよね。喋っている自分、見ている自分、色んな自分がいて。
(※取材当日、円楽師匠の高座中に激しい雷が鳴り、すぐさまその様子を噺の中に取り入れていらっしゃいました。)

-でも仕事としてやっていく上で「きついな、辛いな」と感じることはないのですか?

それは“疲れる時”つまり体力。だって近所の連中は、「いいなあ、色んなところ行って、うまいもん食べて」って言うけど、 そうじゃないんです。落語一席やるのに、新幹線で往復6時間、落語会で2時間、やるためには8時間以上の時間が掛かっているわけ。 年齢も年齢だから、疲れも溜まってくるよね。 だから、そういう意味でも、高座に上がっているとほっとしてね。でも疲れてくるとろれつが回らなくなってきたり、 舌がまわらなかったり、言おうと思っていることと違うことがあったり。 でもそれは自然なことだから、ゆっくりスローダウンしていけば。あとは稽古が辛いね。

円楽師匠写真

-歳を重ねることで、芸は深みを増していくものでしょうか。

うーん、それはどうかなあ。それは分かんないな。修行じゃないからね。 宗教的な修行をしているわけじゃないしね。深みは、年齢で増すものなのか。 そうじゃないよね。悟るからかな。悟れなくても気付きがあるから。若くたって、気付けば直せるでしょ。 「いけない」っていう気持ちと「よしっ!」っていう気持ち、ブレーキとアクセルを踏みっこしながら。 これが年齢で深みが増すっていったら、年寄りはみんな深みが増すはずだしね。 嫌なジジィもいるしね。人間って、年齢じゃないと思う。その時の“気付き”だと思うよ。

-気付き、働く上でも繋がりそうな気がします。

そう、それは全部にあると思います。

-気付くためには、どのような心掛けが必要だと思いますか?

そうねぇ、一言で言うなら“自問自答”。もう一人の自分がいる訳ですよ、しゃべりながら。 自分の日常の中にも、もう一人の自分がいるはずなんです。 「お疲れ様」っていう自分がいたり「頑張ったね」「今日は怠けたな」っていう奴がいたり。 そいつと対話できたらいいわけで。ただ一日・24時間が過ぎていくっていう訳ではなくて、自問自答して、自分と話す。 褒める自分、叱ってくれる自分、一人ぼっちって思うと一人になっちゃうけど、そうじゃなくて、 自分の中にもう一人の自分がいるわけで。だから、自分探しの旅なんてしなくても、自問自答をしておけば良いわけ。 「疲れたなぁ~」「今日はうまくいかなかったなぁ~」という自問自答、感情がもう一人の自分かも。自分がいなきゃ駄目。 そういうものとの出会いが日常になれば良いですね。

-そいういうもののヒントが、落語の中にもあるかもしれないですね。

あると思うよ。聴き方次第ですけどね。

円楽師匠写真

-最後に読者の方へ、一言メッセージをお願いします。

機会があれば、ぜひ“面白い落語”を聴いてください。 入口が上手い人だと良いんだけどね。例えば外国に着いて、最初に会った人の感じが悪かったら、その国のこと、 嫌いになっちゃうでしょ。落語だって一緒。僕が落語会で前座を出さないのは、前座ってヘタだもん。 お金払って、稽古に付き合いたくないでしょ(笑)。秋は福岡で会いましょう!



Q&A画像

Q.「扇子・手ぬぐい」は何に使うのですか?

A.落語唯一の“小道具”です。

落語唯一の小道具です。これ以外のものは使っちゃいけない。小道具。筆になったり、 箸になったり、手紙になったり、刀になったり、槍になったり、この一つが色んなものになる。 手元から刃先までみれば長く見えるしね。

Q.話す「ネタ」はいつ決めますか?

A.寄席なら“チームプレー”バランスを見て。

前の人がかけた噺を見て、全体のバランスでもって決める。与太郎が出た、酒が出た、 長屋が出た、じゃあ侍が出ていないな、名人上手が出ていないなとなって。だからバランス。チームプレーだね。

Q.噺家の「芸名」がユニークで面白いです!

A.亭号は所属している一門、下は師匠が命名。

亭号はその一門(所属しているもの)で、下は師匠が決める。だからひどい名前が付いたらかわいそうだよね。 小遊三さんのところなんか、「あんた、おまえ、いるか」って(笑)。 師匠がふざけちゃったりなんかしてね。昇進すると名前も変わります。

Q.円楽師匠の落語会、行ったらいい事はありますか?

A.うーん、ないね(笑)。その日の俺に会えるかな。

しいて言えば、その日の俺に会える、ということかな。出来不出来がある。今日何かあったのか、体調わるいのか、体力ないのか、 その向こうを見るわけよ。でも、一人を追うっていうことはそうでしょう?

Q.円楽師匠に「ライバル」はいますか?

A.怠け心の自分。

ライバルは、怠け心の自分だろうな。ライバルっていうのは、切磋琢磨か。 切磋琢磨はいないな、自分の中の怠け心と戦うだけで。ライバルっていう人はいない。 みんな仲間だし。好きなやつはいるけどね、歌丸師匠だったりね。落語っていうのは一人だから、ライバルなんていない。 自分と戦うだけです。落語と戦うだけ。例えば、師匠方っていうのは、仏教でいえば、法然であり日蓮であり道元であり、 高僧なんです。で、我々はどこに帰依したのか、お釈迦様、つまり落語なんです。落語を信じる、ということなんです。

■プロフィール

青山学院大学在学中に、五代目三遊亭円楽にスカウトされて入門。 27歳で日本テレビ『笑点』大喜利メンバーに加入。 卓越した構成力と演出法が評価され、全国で独演会や落語会を開催。落語人気の土台を支えている。 2007年より始まった「博多・天神落語まつり」のプロデュースを含め、東西落語界の交流にも力を注ぐ。

第12回三遊亭円楽プロデュース

博多・天神らくごまつり

六代目三遊亭円楽がプロデュース、日本最大の落語フェス。 桂文枝・立川志の輔をはじめ約50名の噺家が福岡に集結、4日間で34公演。 初心者も通も楽しめる贅沢なラインナップ。
■開催日/11月1日(木)~4日(日)全4日間
■会場/FFGホール、イムズホールほか全6会場
■料金/各公演共通・全席指定5,400円(税込)
■公式サイト/http://rakugomatsuri.com/ ※6歳未満入場不可
※都合により、出演者が変更になる場合がございます。予めご了承下さい。

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